買ったからには俺は消費者なのだ。

 連絡も取っていなかった10年(!)程前の友達がいつの間にか小説家デビューしていたので、早速その本をamazonでゲットして読んでみたはいいが、あまりポジティブな感想を言える自信が無いのでこっそりとリンクも貼らずに書いてみる事にする。ごめん某さん。
 物語はフリーターの主人公がふとした所で全く興味の無かった政治の世界にお手伝いとして携わる事になり…というもの。物語というよりもほとんどドキュメンタリーのような形を取っている。ある政治家が震災の中、出来る事に奮闘し、そこから皮肉にも世間に誤解が広がり、それによって窮地に追い込まれながらも目の前の選挙戦に向き合っていく。主人公はそれに共感し、内部から必死に応援する。
 正直に言うとかなり粗い小説だと思った。
 まず、文体のバランスの悪さが気になった。例えば「私はこの事に対して憤りを感じた」のような文章を「私は憤りを感じた。この事について。」のように何故か分割してしまっている。また、突然「あの××を」とか指示語が出てくるが、その「あの」が何を指すのか読んでてわからない。こういった事が多々あって、いちいち読んでて「ん?」と目が留まってしまう。
 次に、応援している政治家に対して「××『さん』」と敬称で呼んだり、参謀ポジションの人の行動の描写にいちいち敬語をつける(「説明してくださった」等)のに違和感を持った。主人公(=作者)は素直にその政治家を応援しているのだなと思ったのだが、どうしても読者としては政治家という生き物に対して主観的に見る事を憚ってしまう。反射的に距離を取りたくなってしまう。
 単純に実録政治ドキュメンタリーとして読んでみると、この物語に書かれている政治家に対して俺は全く共感が出来ない。善人というのはよく伝わってくるのだが、「仕事」としては感情的に過ぎるし、震災の対応、また、炎上の対応としては短絡的に過ぎる。主人公のように主観的に応援していこうという気にはなれなかったし、もしそれを狙っているのなら描写が足りない。「何も知らない」主人公が「一生懸命に政治を応援する」ようになる変化も読んでいてわかりづらかった。
 物語の進行についても不満が残る。後半の選挙戦について政治家の演説を長々と引用しているのに、選挙結果については数行しか書いていない。あの数ページを削れば色んな事が描けたように思えるし、他にもそういう箇所がいくつか見られた。全体的にバランスが悪いんだな。何というか、書きたい事を時系列ごとに書きたいだけ書いた、という印象を持った。
 正直な所、ここまでの俺の思った事ってそこそこの編集さんなら絶対に指摘すると思うんだけど、ちゃんと校正してんのか?タイトルとかデザインとか、出版社が売る気があるとは思えない。作家が意図しない扇情的なタイトルを出版社の戦略でつける事が昨今そこそこあって、それに対して是非はあると思うんだけど、本題に対してはある程度いじった方が良いと思う。某さんは物事を深く掘り下げるタイプの人で、象徴としてあのタイトルにしたと思うんだけど、いくらなんでも単語としては平凡過ぎて、正直俺は本屋でこの本を見かけたとしてもページを開く事は無かったと思う。リアル鬼ごっこ見た時は開いたんだけどね。
 で。
 某さんは(まだ期限が切れてないなら)友達なので良い所も挙げたいのだが、とにかく彼女は思考の深みと多様性、そして独特な感性を有している人で、本文の中にも「なるほど」と思う文はかなりある。ぷつぷつと切れてる独特の文体も上手くハマるとリズムが気持ち良いし、時折混ざる可愛らしいユーモアはまさに彼女ならではのものだろう。それが活かされるのはもう少し「物語」というものを書き慣れてからなんじゃないかなあと思ったりもする。もう2,3年くらいして経験値の上がった彼女の作品をまた見たいと思います。
 とりあえず色々書きましたが、俺は職業クリエイターというのはとても憧れるし、尊敬します。次の作品が出たらまた買うでしょう。がんばれ某さん。