サックスとピアノ


 ふと思うに、俺はピアノをもう21年もやっている。これだけ弾いてりゃまあ、そこそこは弾けるようになる。なるべく毎日弾いてるから指も回るし、目をつぶっていても鍵盤の位置がどこかがわかる。指づかいも、ある程度は苦もなく行なう事が出来る。
 それ以前にピアノという楽器は指しか使わない楽器である。なので、こんな俺が「サックスの人のアドバイスって出来るのか?」て思った時に止まってしまった。ピアノにロングトーンは必要ない。
 今日川原でサックスの練習をしている少年がいた。基本の音階をやっていた。管楽器ってのは、そういう基本練習がどうしても必要となる。しかも、電子ピアノのように深夜で一人で弾くなんて事も出来ない。最近カラオケで練習してる人の話をよく聞くが、それだって「わざわざ」やらなければ出来る事じゃあ無い。練習や積み重ねってのは、「何も考えないで」出来る環境を整えることも大切だ。
 人にアドバイスをするには、その人の状況をよく想像しないといけない。
 そんな訳でサックスとピアノの違いを考えた。サックスは口と指を使う。サックスはピアノのように音階を目で確認する事が出来ない。サックスは息を使う。ピアノは使わない。なので、ピアノはやろうと思えば際限無くフレーズを重ねることが出来る。俺は初見に強いから楽譜を即座にピアノの音に変換する出来る。それが出来ない人は音を指に馴染ませるのに随分時間がかかる。


 やっぱり随分と違う。


 条件が違うということは、上手くなる道も違うということだ。俺には俺の、あきお君にはあきお君の上手くなる道があるのだと思う。俺が出来るのは自分の道を提示することと、向こうの「適した一歩」を見せるだけなんでは無いかな。