衝動


 自分の中に一つのスイッチがある。
 そのスイッチはどうやったら押されるのかあまりよくわからないが、しかしそれが押される時は自分の脳の中が「異常な状況」となる。快楽とクロックアップ、そして「動かなければ」という衝動が噴き出してくる。これはエンドルフィンだろうか。俺という人間そのものが何か別の軸へ「ズレ込む」。
 何かがしたくなる。
 体が自然と動く。たぶん、この状況で一番したいものはセックスだろうな、と思ったりする。女体を貪ることこそが快楽に溺れる最高の方法だと思う。しかしセックスは概して貴重なもので、近くに女がいなければ始まらない。しかも、セックスというのは往々にして「女性がやる気にならなければ出来ない」代物である。世の中は良く出来ていて、堕落しないよう最高の快楽は簡単には手に入らないようになっている。
 そして俺はピアノを弾く。
 何故ピアノを弾くか。音という周波数に自分が埋もれるために弾くのである。脳を鼓膜の薄壁1枚で揺さぶり尽くすために弾くのである。俺が「自分の為に弾く時」は、大体そんな弾き方をしている。ピアノさえあれば快楽に溺れることが出来るんだから、我ながら得な技術を身につけているな、と、思ったりもする。
 この衝動はずうっと、俺の背を支える骨となり続けている。