つらつら


 ピアノを弾く。やっぱり弾けば弾く程自分の「変化」を感じる。
 まず、リズムに乗って演奏する事が好きになった。レッスンの時以外の俺の演奏は専らメトロノームとのデュオだ。テンポを裏に設定してから、適当に知っている曲を弾きまくる。知っている曲は、それこそ何百回も弾いてきた。自分が「乗っている」時はその時「弾くべき」メロディのラインが浮かび上がってくる。そして最近の浮かんだメロディは、明快極まり無いものばかりだ。
 昔の自分(もう「昔」と言っても構わないくらいの年月が経ってしまった)はとにかく複雑で幻妙な、煙に巻く演奏を好んで弾いてきた。周りのバンドメンバーが合わせる時に一人ヴェールを被せるような、そんな演奏だった。今もそれは別に嫌いじゃない。やろうと思ったら出来る、とは思う。
 何だろうね。当時持っていた「超凄い俺が深淵を覗く」という野心はいつの間にか失せていて、代わりに「自分とか周りの人がその場で楽しんでくれる演奏が一番」と思うようになった。ジャズを弾く事にも抵抗は随分減った。最近は「弾いているのはジャズピアノです」と名乗っても全く問題無いと思う。昔は「ジャズ」というものを軽蔑感すら抱いていたのに。
 一人で弾いていると自分の好みがダイレクトに現れてくる。今の自分が弾きたい音楽はさしずめ「レゴの城」のようなものだろうか。良く出来ると自分を褒めたくなる。出来ていないと「練習と研究が足りないな」と思う。そういう事を何度も何度も繰り返した結果、いつの間にか自分は「深淵を覗く」演奏では無く、「変な建築物を作る」演奏をするようになった。時々思い出したように変化に戸惑ったりもするが、まあそれでも良いのかなとも思ったりする。
 まあ何だ、楽しけりゃいいんだよね、こういうのは。本人が満足すればそれで良いのだ。今度機会があったら「俺ってこんな事出来るんだぜー!」と周りに自慢してみようと思う。