手を改造する


 俺がピアノを教える時は大抵モチベーションの維持、ジャズの楽しさへの開眼を主軸に置いているので、なるべく覚えるのが簡単で、かつ効果があり、そして弾く事自体が楽しみになる事を優先して教えている。今の生徒さんは結構長い事教えているが、それが功を奏したのか「弾かない日があると不安になる」とまで言ってくれるようになった。
 さて、そんな生徒さんへのレッスンも遂にEbの領域まで来るようになった。単純な黒鍵の数で言うとEbは3つ。キーとしてはレベル4。しかし、BbとEbの難易度は全く別物だと俺は考えている。Ebはルートと5thは黒鍵であり、そのためどのフレーズを弾いていても黒鍵が重要なポイントに必ず位置してしまうという特徴がある。黒鍵を多用する事になると、指を上下左右、立体的に動かさなければいけない。
 今まで何となく指先だけ動かしていたメロディを、これからは幾分か無理のある体勢で弾けるようになれなければいけない。なので、この時点で弾いている手をピアノ専用に改造する必要が出てくる。具体的に言うと、単体でも力強く動かせる小指と薬指、メロディの上下左右に柔軟に対応出来る手首などがそれだ。ちなみにこれが出来るようにならないと他キーのように自由にメロディが作れなくなってしまう。頭の中にどんなに創造性が充ち満ちていても、「とっさに弾く事が構造的に難しい」という理由で、結局平凡なメロディしか表出出来なくなる。Eb以降のキーで楽しく弾く為には、その楽しく弾く行為に耐えうる手を作らなければならない。
 という訳で生徒さんにはこれからは、ちょっと面倒臭いレッスンが続くかも知れないがまあ頑張って頂こう。ちなみにEbを弾き始めると同時に出始めるのが故障へのリスクだったりする。安全に、かつ効率の良い改造をしていかなきゃいかんね。